ストイックの棲む町



 もしかしたら、彼の住む世界と、自分の住む世界は違うのかもしれない。こう思ったのは昼食を食べ終えた後だった。
 その一連は、朝のニュース速報を思い出しながら、親友と他愛もない話をしているとき、ふと、話題が変わったことからはじまる。
 「協調性のないといえば、あいつも、そうだな」
 ふと取り上げられた人物に首をかしげながらも、すぐに姿が浮かび上がる。霧野の嫌う人間なんて、一人しかいない。
 「狩屋か」
 名前を出すだけであからさまに嫌な顔をする霧野に苦笑を浮かべつつ、弁当箱を鞄にしまうと、本題であろう狩屋の話に耳を傾けた。
 「転入当初、あいつは自分のことをシードだと言っていた。」
 「シード?まさか」
 霧野が狩屋にこれほどまでの嫌悪感を抱いている理由は知らなかった。しかし霧野は、一時期とても落ち着きがなく、毎日のように苛々していた。それが狩屋の転入してきた時期である。部活の練習のたびに霧野は狩屋に足をかけ、転ばせ、どうも様子がおかしかった。
 「ああ。あれは百パーセント、嘘だ。」
 「じゃあなぜ」
 「神童。お前は、俺があいつに嫌がらせをしたと思っているな。」
 諦めたように霧野が息を吐く。
 「・・・違うのか?」
 「実際は、あいつがわざと転んでいた。俺にぶつかったときにな」
 「どうして言わなかったんだ?」
 「あの時言っても信じなかったろう。」
 「・・そうだな、今でも信憑性に欠ける。」
 「お前、そんな薄情な奴だったんだな」
 霧野が苦笑する。困った時などによくする笑みだった。
 「でも、だとして、狩屋はなぜ、そんなことを」
 教室をぐるりと見渡して、また霧野に目を合わせた。隣の席の女子は今日は風邪で欠席だった。霧野がその椅子を使っていたので机だけが寂しそうに立っている。霧野は考えるように目を瞑ると、顎にあった手を頬に持ってきて目を開けた。
 「単に俺たちを惑わせようとしたのか・・・・」
 でも、と言いかけてまた霧野は目を瞑る。相当な難問らしい。霧野は昔からこうして、難問が出るとすぐに目を瞑って考え込んでいた。どうも他人にそれを譲るのを嫌う性質で、なんでも自分で解決しようとする。いつだったか、解けた後の達成感が最高だと笑っていた。
 「惑わせる必要性が見当たらない、か。」
 付け加えるように俺が言う。確かにそうだ。狩屋がシードではないことは確実である。なのに彼はシードであると宣戦布告をしたわけである。おかしいと思うのは当然だ。なぜ彼は俺たちを惑わす必要がある。なぜわざわざ霧野だけに、霧野だけに?
 「それは、お前だけに言ったのか?」
 「シードだって?」
 「そうだ。」
 霧野は不思議そうに俺を見た。喉仏がこくりと動いたのがわかる。見た目は女なのに、誰よりも男である霧野そのものの。
 「お前、もしかして・・・」
 怪訝そうに、しかし笑うように。その目はじっと俺を見て離さなかった。
 「妬いてるのか?」
 「妬いてる?誰が」
 「お前が。」
 「冗談だろ」
 はは、と乾いた笑い声がした。俺をからかっているのか?目眩がした。くらりと頭の中が回転したような気がする。顔が火照ってあつく、気持ちが悪い。風邪が移ったのだろうか。
 「おい、嘘だろう」
 引きつった笑顔の霧野が立ち上がる。顔が赤いぞと言われた気がする。もう何も考えられなかった。
 ただ、狩屋の声が、する。

 


 「キャプテンが倒れたって!」
 ばたばたと大きな足音をたてて、天馬と信助が教室に入ってきた。この二人はいつもうるさい、暑苦しい、疲れる。イチゴを持っていた手を止めて、「で?」と言ってみた。天馬は大きく息を吸い込んでそのまま吐き出すように言った。
 「キャプテンが倒れたって!」
 「きいたっつの」
 ぼそりと声を漏らす。信助は爪先立ちで「それで、それで」と肩を上下に揺らしていた。正直、どうでもよかった。キャプテンが倒れようと、誰が倒れようと。天馬と信助は俺をじっと見ていた。一緒に弁当を食べていた剣城もつられて俺を見る。向こう側で女子のグループの輪の中にいた空野も、異変に気付いてこちらに向かっていた。
 「で、狩屋に来てほしいって!」
 ほぼ同時だった。俺が「なんだよ」と言いかけたのと、二人が声をあげたのは。
 「・・・はぁ?」
 「霧野先輩が」
 「なんでそこで霧野センパイなわけ?」
 呆れたように首をふる。空野が「どうしたの?」と寄ってきて、剣城が肩をすくめた。
 「狩屋、またなにかしたの?」
 「なんで俺の呼び出しはもれなく悪さしたことになってんだよ」
 いつものくせで睨み見ると、空野は舌を出して笑った。コイツは、どこかマセているところがある。だから苦手だった。
 「・・・どちらにせよ、霧野先輩は神童先輩が倒れた原因をお前だと思っていると見て間違いはない。」
 冷静に剣城が分析して、頑張れよと一言付け加えた。余計なお世話だ。
 「わーった、わーった。行けばいいんだろ?どこ?保健室?」
 「いや、救急車で運ばれたって・・」
 「そんな重症なのかよ。」
 わざと大きめに溜息を吐いて立ち上がる。救急車ということは病院だろうか。ここから近い病院は・・・。ふと後ろを振り返って、天馬を見る。
 「早退って言っといて」


 病院にまで運ばれるなら、倒れたときにどこか打ったのだろうか。頭?脚か?いや、腕かもしれない。腕を打ったらサッカーはできるのだろうか?いや、腕ならできないのかもしれない。珍しく頭の中で考えていると、どうやら気付かないうちに病院内に入っていたらしい。若い看護士が笑って俺を見ていた。
 「どうしたの?」
 「あ、いやー、えーと」
 「雷門の生徒でしょう、あ、お見舞い?さっき、きてたよ。雷門の子。神童くん」
 「そう、それ」
 遅れて、です。と言うと、また看護士はにこりと笑った。
 「うーん、とくに大したことはなかったけど。だからもう帰って・・・。もしかして、神童財閥の子かなって」
 「それです。ああそうか・・帰ったなら、いいです。ありがとうございました。」
 「ううん、ごめんね、学校、抜け出してきたの?ふふ、」
 咎められるようなことはなかった。ただ、すぐに俺から目を離して「こら、太陽くん!寝てなきゃだめでしょう」と病室を抜け出したらしい少年を追いかけていった。ここら辺は、学校も病院も騒がしいのか。確か太陽と呼ばれた少年は、俺と同い年くらいの子だったように思う。
 病院を出て、立ち止まる。神童財閥ってなんだ?あいつ、そんなに金持ちの子?ていうか、家に行かなきゃいけないわけ?考えれば考えるだけ、疲れた。
 とりあえず歩くことにする。神童財閥なんて知らなかったし、ましてや家なんて行った事もなかった。そういえば、遊びに行った家なんて、天馬のアパートくらいだ。俺は友達が少ないのだろうか。
 学校に戻るべき?もう、帰るか?しかし今帰ったら瞳子さんたちがしつこいだけだ。面倒なことは、嫌いだ。
 うろうろとしていると、河川敷の向こう側の橋に、見覚えのあるピンクのおさげが見えた。平日の真昼間に、雷門の制服を着た――。
 「センパイ・・・・」
 さも皮肉そうに敬称する語で呼んでみる。あちらも驚いたように目を見開いていた。天性の女顔で、俺を見ていた。女が苦手というわけではなかったけれど、生まれつき近くにいた異性なんて母親しかいなかったし、その母親も、今はいない。
 「お前やっぱりその、そういう、奴だったんだな。」
 「ちょっと待ってください。何の話ですか。」
 「いや、平日の昼間に学校も行かずうろつくような・・・」
 「あんたが呼んだんでしょう。」
 俺だって来たくて来ているわけじゃない。そう付け加えると、先輩はああそうかと笑った。
 「どこか行くか?」
 「こんな時間に中学生がうろついてたら通報されますよ」
 「大丈夫大丈夫。」
 何が大丈夫なのか。先輩は、はは、と笑い、歩き出した。先輩の通ってきた道を戻るらしい。この人も忙しいな。なんて思いながら後ろを歩く。どう見ても男子の制服を着た女子の後姿。しかし背中はぴんとしていて、肩幅が広く、かっこうがよかった。
 「この前、帝国戦のときにさ、」
 あ、と言って先輩が振り向く。続けてごめんと一言謝った。どうしてこの人は俺に気を使う。俺なんかに。
 「いいですよ、続けて。」
 「悪いな、何か・・」
 気まずかった。正直、逃げ出したかった。でも、強がって話を聞くしかなかったのだ。
 「帝国学園、知ってるか?」
 「名門ですよね。サッカーの。」
 「お前が来る前に、帝国と試合をしたんだ。」
 へぇ。俺は橋から河川敷を見下ろしながら、上辺だけの相槌を打つ。真冬だというのに太陽が照っていて、あつい。ぽつんと置いてある汚いサッカーゴールがその光を受けていた。俺はここで、サッカーをしたことがなかったのに、なぜか懐かしかった。天馬がそこでドリブルをしている幻が、見えた気がした。
 「そのとき、鬼道監督は帝国の監督で、俺たちは帝国が全員シードだと思っていたんだ。」
 「違ったんですね。」
 聞きたくなくて、置いていかれたくなくて、話を急かしていた。昔からの俺の、悪い癖だ。
 「試合が終わったあとにな、鬼道監督が全部話してくれた。それで、行ったんだ。フィフスセクターに反抗する組織のところに、」
 「随分と壮大で」
 「たしか、レジスタンスとかいってたな・・・その中心人物で、元イナズマイレブンの一人がさ、」
 先輩の目はきらきらとしていた。雷門の連中はたいてい、”伝説のイナズマイレブン”とか、”雷門イレブン”とか、そういうのには過剰な憧れの態度を見せる。俺には正直、どうでもいいことだった。
 「ラーメン屋やってるんだって」
 「は?」
 そのきらきらとした目で俺を見る。一瞬、先輩はラーメン屋に憧れているのかと思ってしまった。様々な情報が飛び交う頭の中で、一通り整理をする。息を吸い、吐く。
 「そこに?」
 「行く。」
 行きたかったのだろうか。自分の学校のOBが経営しているラーメン屋にこれほどまで行きたいと思う奴なんてこの人以外いるのだろうか。というか、伝説とまでいわれてるわりには、ラーメン屋なのか。そういえば雷門サッカー部のOBには無職が多い気がする。不景気だからだろうか。俺はここにいていいのだろうか。
 かといって他に行くあてなんてなかったし、そのまま先輩の後ろをついて歩く。いつの間にか商店街に来ていた。年寄りが多い時間帯で、ちょうどよい静けさだった。俺の家(実家ではないけど)は反対側だったために、ここに来るのは数回目だった。天馬と来た時は子供が多かった気がする。
 「ここ。」
 先輩が立ち止まり上を向いて指をさす。つられて見てみると、指された先には”雷雷軒”と書かれた古い看板があった。胡散臭いラーメン屋である。先輩は躊躇うことなくスライド式のドアを開けた。
 「いらっしゃい」
 客はいなかった。リーゼント風の若い男が立ち上がる。奥に煙草が見えた。
 「狩屋、腹は」
 「いや、いいです。」
 若い男と目が合う。少し笑っていた。この人が伝説とかいう人だろうか。それにしては若く見える。伝説のイナズマイレブンはたしか何十年も前の話だったような気がする。
 「その制服、雷門か。」
 その人は、顔のわりに優しい声をしていた。先輩がはいとうなずく。「そうか」とだけ言って、その人は背中を向けた。
 「ああ、そうだ、神童のことだけど。」
 壁に貼られた”チャーシュー”と”ニラ”の紙を交互に眺めながら、先輩が言った。「チャーシュー麺を一つ、いいですか。」と言って、俺を見る。やっと本題がきた。
 「今日倒れたんだよ。」
 「そうですか」
 「狩屋の話をしてたんだ。」
 「そうで・・・は?」
 「狩屋生意気だよなー。とか言ってたら、その何分後かに。神童が教室を出てどこかに行こうとして、そのとき。」
 「センパイたちって、そんな話してるんですねー。」
 あまりいい気はしない。当然のことである。
 「保健室に連れて行こうとしたら。救急車がきたんだよ。どうなってるんだ?」
 「いや、それは知りませんけど。」
 「俺もついていったら、大したことないって。ただの目眩だってさ。」
 「俺なんで呼ばれたんすか。」
 わけがわからなかった。くっくっというおさえたような笑い声が聞こえる。若い男に全部聞かれていた。
 「狩屋の話をして倒れたんだから、お前のせいだろー。」
 「え、ちょっと。いみわかりませんって。」
 「相当悩んでたんだなぁ。神童。かわいそうに。これはお見舞いに行ってやらなきゃなぁ。な、狩屋?」
 この人は面倒くさい。心底思った。これでは俺は、神童先輩の家に行かなきゃならない。
 「神童の家までは、俺が書いてやったから。ほら、はい。いってらっしゃーい。」
 「え、ちょっとまってください。だって、え?俺一人ですか?」
 少し崩れた字と絵で描かれた小さな地図を無理矢理握らされ、背中を押される。振り向くと、先輩は意地悪そうに笑っていた。
 「俺、ラーメン頼んじゃったし、行けないじゃん。」




 神童先輩の家までは、それほど遠くはなかった。家の目の前にきたとき、その大きさに目を疑ったけれど、チャイムを鳴らすとすぐに先輩の声がした。
 「狩屋か」
 「なんでわかったんですか。」
 驚いて言うと、インターホン越しに「カメラ」と声がきこえた。少し笑っているようだった。ああ、そういうことね。
 プツリと音がして、すぐにドアが開く。神童先輩の私服を見たのは初めてだった。白に少し灰色のラインが入ったシャツを着ていた。清潔で、先輩に相応しいような気がした。この人は、俺とは正反対の世界にいる人だ。
 「入れよ。」
 「え、えー・・・」
 「お前、何しに来たの?」
 「霧野先輩に言われて・・・」
 返事は返ってこなかった。手首を掴まれ、家の中に入れられた。触れられた瞬間、少しだけひやりと冷たかった。先輩の家の中は、静かで、冷たく、寒かった。
 家の中に入っても先輩は何も言わなかった。「お邪魔します」という俺の小さな声が響く。他人の家での振舞いは、幼い頃に親から厳しく言われてきた。
 きれいに磨かれた廊下。鏡のようにすべてを映していた。神童先輩は足音をたてずに前を歩いていた。なぜか緊張して、息苦しかった。
 「何か飲むか」
 「い、いらないです」
 リビングらしきところにくると、先輩が振り向いて言った。いつもの笑顔だった。少し安心して、息を吐く。
 「悪かったな・・・。本当に、大したことはない。」
 「でも、すごいですね、救急車って・・」
 「心配性なんだよ。正直迷惑なんだけど、一人っ子だから・・どうしても世話を焼きたいんだろうな。」
 俺も一人っ子だと、そのときは言えなかった。あまりにも違いすぎたのだ。俺の親は、子供を心配するような奴ではなくて、簡単に捨てるような奴だったから。とても羨ましかったんだと、おもう。
 「中二にもなって、目眩で救急車は恥ずかしいからやめてくれって言ってるんだけど、届いてないみたいで。」
 「届いてない?」
 「ほとんど帰ってこないし、連絡もつかないんだ。仲介人を通して連絡をとってるけど、ほとんど届かないことが多いから。」
 このとき初めて、俺は何か勘違いをしていると気付いた。この人は、普段から、親はいないも同然の生活を送っていたのだ。
 「信じられるか?親と連絡をとるのに、仲介人が必要なんだ。」
 「・・・俺もです。」
 何も躊躇わなかった。ただ、ぽつりと呟いていた。何の、抵抗もなかった。
 「俺にも、身内がいない。」
 悲しいとは思わなかった。この事実は、二年前に、幼いながらにすでに受け入れていたから、今更悲しいと思うことはなかった。先輩は驚いたように顔を上げて、俺を見ていた。少し垂れ下がった、奥二重のわずかに大きな目だった。
 「二年前にね、捨てられたんです、俺」
 さもおかしいかのように笑った。俺は、捨てられたんだと、ほら、おかしいだろう、と。しかし先輩は笑ってはいなかった。じっと俺の目を見ていた。労わるように、慈しむように。俺の嫌いな、目だった。
 「お前、じゃあ、今は?」
 「孤児院で、擬似家族ですよ。」
 「それは、本当、なのか?」
 「嘘だと思うなら、それでもいいです。」
 俺はどこまでも、素直ではなかった。瞳子さんがヒロト兄さんに「あの子は人間不信だと思うの」と言っていたのを、一度だけ聞いたことがある。そのときヒロト兄さんは「そんなことはないよ、マサキはまだ、人を信じられる。」と言っていた。いいや、俺は、誰も信じてはいない。どこかでそう思った自分がとても悲しかった。人は、自分を信じられなくなったら、きっと、人間として終わりなんだと思う。
 それならもう、俺はいいから、潔く、消えたい。
 

 神童先輩は、何か言いた気な顔で、俺を見ていた。しばらく顔を歪ませて、躊躇っていた。泣くのかと思った。けれど先輩は、わざとらしく息を吐いて、俺の目を見て、言った。
 「そんな気は、していたよ」
 よくわからなかった。先輩の言葉の意味が、しっかりと理解できなかった。少しだけ首を傾げてみる。先輩は口元を綻ばせて、俺に近づき、頭にぽんと手を置いた。
 「初めは、正反対だと思った。お前って、ほら、すごく人間らしくて、羨ましかった。」
 先輩の手は、綺麗で長かったけれど、とても硬くて少しだけ驚いた。もっと弱そうだと思っていた。
 「でも、思ったんだ。狩屋って、どこかいつも我慢してるって。」
 先輩は優しく笑った。頭に置かれた手がとても心地よかった。ふわりとしていて、懐かしかった。
 「だから、霧野にシードだって、言ったんだよな。」
 気を抜けば、涙が零れそうだった。それほどまでに先輩は優しかった。甘かった。だから、悔しかった。俺は素直じゃない。
 「お前は、素直なんだ。少しずれているだけで、とても素直なんだ。」
 それ以上言われたくなかった。もう、喋らないで。口を閉じてほしかった。気を張っても、集中しても、どうしても、涙が零れた。
 「俺にはできないよ。自分を見てほしいと、そうやって我が侭を言えたりはしない。お前の両親は、きっとお前を捨てたわけではないよ。」
 「もう、いいです。もう」
 「そうするしか、なかった。お前を見たら、わかる。お前を愛したかったけれど、どうしても、できなかった。」
 「やめてください。俺は、もう、いいですから。」
 消えたかったのは、俺ではなかった。
   


 たぶん、先輩は知っていたのだと思う。俺がなぜ霧野先輩を潰そうとしていたのか。俺でさえわからなかった難問を、一番初めにたった一人解いた人物だった。俺にはまだわからないのだ。解答を見つけても、導けない。俺にはそれを解く技術がない。
 帰ろうと玄関を出たとき、先輩は笑って、「俺もお前も、住んでる世界なんて同じものだった」と言った。やはり俺が理解できるものではなかった。しかしそれでもよかった。つまり先輩と俺は、同じ場所にいるということなのだ。変に誤魔化されるより、こちらのほうがずっとよかった。
 帰り道に、下校中の天馬と空野にあったけれど、俺の目の赤みについては何も触れなかった。彼らはいつも通りに笑って、「キャプテン目眩だって」と言った。知ってるよ。今、行ってきたからな。
 まったく、雷門というやつは、どうしてこうも。
 だから俺は、ここが気持ち悪いほどに、居心地がいいと思うのかもしれない。



考えてもわからないくらいがちょうどいいです(深く考えて読まないでくださいという意)
私も適当にかいたのでね・・・・小説久々でしたね・・・・。